競技経験を活かすセカンドキャリア。日本一でなくても「教える」は始められる

セカンドキャリア

最後の試合が終わって、道具をしまった日を覚えていますか。

シューズの泥を落とした日。道着をたたんだ日。ラケットやゴーグルを、しばらく開けない棚に入れた日。形は人によって違っても、「ここで一区切り」と感じた瞬間があったかもしれません。

そこから毎日は、仕事や学業、家のことで埋まっていきます。練習に使っていた時間は、別の予定に置き換わります。

それでも、何年もかけて身につけた感覚や考え方が、消えてなくなったわけではありません。体の使い方。試合前の過ごし方。調子を崩したときの立て直し方。それらは今も、あなたの中にあります。

その経験は、これからどこへ行くのでしょうか。

この問いに悩むのは、あなただけではありません。2024 年 7 月に公表された「スポーツ選手のセカンドキャリアに関する意識調査」では、プロ・セミプロ・社会人のスポーツ選手 111 人のうち 90.1% が、競技引退後のキャリアについて「悩んだことがある」と答えています(「非常にある」35.1%・「ややある」55.0%。2024 年 7 月 11〜12 日のインターネット調査。出典:ビズメイツ株式会社)。

この記事では、競技経験を活かすセカンドキャリアの主な道を整理したうえで、「教える」という選択肢について、私たち BestMaster 運営事務局の考えをお伝えします。元アスリートの方だけでなく、部活動や大学の体育会で競技を続けてきた方、審判や記録係として試合を支えてきた方にも読んでいただきたい内容です。

競技経験を活かすセカンドキャリアの主な道

競技経験の活かし方は、ひとつではありません。代表的な道を並べてみます。どれが正解ということはなく、いくつかを組み合わせる人もいます。

一般企業への就職

競技とは別の分野の仕事に就く道です。目標に向けて練習を積み重ねてきた姿勢や、指導者や仲間と関わりながら続けてきた経験が、採用や仕事の場面で評価されることもあります。競技で身についた習慣が、職場で形を変えて生きる場合もあります。

競技団体の役職員・指導者

競技団体の運営に関わったり、地域のクラブや学校の部活動で指導者になったりする道です。大会の運営や競技の普及、次の世代の育成など、関わり方はさまざまです。競技との距離がいちばん近い道と言えるかもしれません。

起業・ジムや教室の開業

自分でジムや教室、スクールを開く道です。教える内容や方針を自分で決められます。一方で、場所の確保や生徒集め、お金の管理まで自分で担うことになり、準備と計画が欠かせません。

資格の取得

指導者の資格や、トレーナー、体のケア、栄養など周辺分野の資格を取る道です。競技の経験に専門の知識が加わることで、関われる場面が増えることがあります。資格によっては、講習や実習に一定の期間がかかります。

学び直し

大学や大学院、専門学校などで学ぶ道です。スポーツ科学や指導法を学ぶ人もいれば、競技とはまったく別の分野を選ぶ人もいます。競技に打ち込んでいた時期にできなかった勉強に、改めて取り組む機会にもなります。

デュアルキャリア

競技と仕事、あるいは競技と学業を並行して進める考え方です。所属先の理解や時間のやりくりは必要ですが、競技を続けながら次の準備を進められる点が特徴です。

引退後も競技と関わるオリンピアンは約 8 割(2014 年の調査)

引退したあと、競技とどう関わっているのか。少し前の調査になりますが、公益財団法人 笹川スポーツ財団が 2014 年に実施した「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」に、その手がかりがあります。

2016 年 1 月 7 日に公表された笹川スポーツ財団のプレスリリースによると、引退したオリンピアンの約 6 割が競技団体の役職員や強化スタッフ、または指導者として従事していました。愛好者として競技を続けている約 2 割も含めると、約 8 割が現在も競技との関わりをもっています。

この設問の回答者は 406 人です。内訳には、次のような関わり方も含まれています。

関わり方 割合
地域スポーツ指導者として 15.8%
部活動指導者として 10.6%

第一線を退いたあとも、多くの人が何らかの形で競技のそばにいます。その中には、地域や学校で次の世代に教える立場を選んだ人もいます。

この調査の対象は、オリンピアンです。そのうえで、私たちは「経験を次の人に渡す」こと自体は、トップ選手に限った話ではないと考えています。大きな大会で結果を残していなくても、部活動で最後まで続けた人、社会人チームで長くプレーしてきた人、審判や記録係として試合を支えてきた人にも、競技の中で積み重ねてきたものがあります。

引退や卒業は、競技との関係が終わることではありません。やる側から、伝える側に変わるだけです。

「私なんかが」と思う人ほど、教えられることがある

「教えるなんて、私なんかが」。そう感じる方は少なくないと思います。もっと上手くなってから。もっと結果を残してから。そう考えるのは自然なことです。

教わる側は、日本一を探していない

教わる側が探しているのは、日本一の人とは限りません。多くの場合は、「自分より少し先を歩いている人」です。

始めたばかりの人には、始めたばかりの頃を覚えている人の言葉が届きやすいことがあります。大人になってから競技を始めた人には、仕事と練習の両立に悩んだ経験のある人の話が役に立つかもしれません。

あなたより上手い人を、教える必要はありません。

遠回りも、当たり前になった感覚も、渡せるもの

壁にぶつかって時間がかかった経験がある人は、その時間に見つけたことを渡せます。順調に続けてこられた人は、なぜ続けられたのかを渡せます。

生徒が受け取るのは、技術そのものだけではありません。あなたが何年もかけて見つけたことを、もっと短い期間で受け取れるかもしれない。そこに、教わる意味があります。

もうひとつは、当たり前になった感覚です。踏み込むときに、足のどこに体重を乗せるか。水をつかむ感覚。試合の流れが変わる前の気配。経験者にとっては当たり前すぎて、価値に見えにくいものです。けれど、それを言葉にしてもらうだけで、初めて分かる人がいます。

審判や記録係の経験も同じです。ルールの細かな解釈や、試合を外から見続けてきた目は、プレーする人にとってのヒントになることがあります。

あの頃の自分が、欲しかった人になる

競技を始めた頃、近くに相談できる人がいなかった。何を直せばいいのか分からないまま、練習を続けていた。そんな時期を思い出す方もいるかもしれません。

あの頃の自分には、間に合わなかった。でも今なら、誰かに間に合うかもしれません。

あの頃の自分が欲しかった人に、今度はあなたがなる。教えることは、そこからでも始められます。

競技人口の少ない種目こそ、経験者ひとりの意味が大きい

教わりたい人がいるのは、競技人口の多い種目に限りません。

ラート、コーフボール、フロアボール、セパタクロー、スラックライン。競技人口の少ない種目では、情報や教わる機会がまだ多くないこともあります。近くに経験者がいなければ、学ぶ手段そのものが見つからない場合もあります。

そういう種目にこそ、経験者がひとりいる意味が大きいと私たちは考えています。あなたが教える側に立つ。それだけで、その種目に「教わる選択肢」がひとつ増えます。

知名度の低さは、あなたの経験の価値とは関係ありません。

BestMaster では、競技の一覧に目当ての種目がない場合も「その他」として登録できます。審判・スコアラー・レフリーなど、競技の運営に関わる経験の分類もあります。

引退する前から、小さく始める

動き始める時期で、残せるものが変わる

競技を離れて時間がたつと、自分が何をどう考えてやっていたのか、少しずつ思い出しにくくなります。練習の細かな工夫や、試合の前に考えていたことは、書き留めておかなければ薄れていきます。

だからこそ、現役のうちや引退して間もない時期から、小さく始めておくことには意味があります。いきなり教室を開いたり、仕事を変えたりする必要はありません。引退してから年月がたった方も、思い出せることを今のうちに書き留めておくだけで、残せるものが変わります。

教えられることを棚卸しする

次の問いに、思いつくままに答えてみてください。

  • 始めたばかりの頃の自分に、ひとつだけ伝えられるとしたら、何を伝えますか。
  • 後輩や仲間、家族から、よく聞かれたことは何でしたか。
  • 練習や試合の前に、自分なりに続けていた工夫は何ですか。

答えが短くても構いません。それがそのまま、教えられることの候補になります。

オンラインで教える、アドバイスする、教材にする

教える形も、ひとつではありません。BestMaster のマスターは、次のような形でレッスンや教材を出せます。

形 内容
オンライン ビデオ通話で、日時を決めてレッスンをする
アドバイス 生徒が送った練習の動画などを見て、チャットで指導する。日時の予約は不要
対面 直接会ってレッスンをする
教材 動画・テキスト・ファイルなどで、教えたい内容をまとめて販売する

オンラインは、対面の代わりではありません。近くに教えられる人がいない生徒や、決まった時間に通えない生徒に、対面では届かなかったところまで届く方法です。

アドバイスの形なら、生徒から届いた動画を、自分の都合のよい時間に見て返せます。仕事や学業と並行しながら始めやすい形です。

BestMaster が目指すこと

BestMaster は、競技経験を持つマスターと、教わりたい生徒が出会う場所です。私たちが大切にしている言葉は、「経験を、次の誰かへ。」です。増やしたいのは、登録する人の数ではなく、実際の指導です。

現在、マスターの事前登録を受け付けています。事前登録は無料で、指導経験や資格は問いません。習いたい方の登録は、サービス開始に合わせて受付を開始します。

BestMaster は雇用ではなく、マスター自身がレッスンの内容や料金を決めて活動する場です。レッスンを生徒に公開するには、本人確認が必要です。

マスターとして活動するには、月額利用料と、レッスンや教材が売れたときの販売手数料がかかります。この二つは別の費用です。料金は料金ページで確認できます。なお、収入を保証するものではありません。

マスターになるまでの流れは、マスター向けのページにまとめています。

道具は棚にしまっても、経験までしまう必要はありません。

経験は、まだ終わらない。

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